瑛九は、長く暗い模索の中から脱出して独自の絵画の世界に到達したことを確かめながら、昭和34年の10月、自己を決定する仕事にとりかかると言って、この200号の大作を描きはじめる。しかし11月の夜、腎臓の衰弱のため激しい腹痛におそわれ入院する。そして12月に退院し自宅療養をしながら、気分の良い時に少しずつ絵筆をにぎり完成させたのがこの「つばさ」であり、最後の作品となった。他の点による作品に比べ、色彩はややうすく、研ぎ澄まされており、上部にまとまった凝縮された色点がある。その細かな点は動き始め、見る者を作品の中につつみこむ。単に鑑賞する作品ではなく、
瑛九の精神を体感させてくれるものとなっている。まさしく
瑛九の生命をたたきつけた絶筆である。