やせた男と女がテーブルについている。テーブルにはワインと一枚の皿、パンが転がっているだけで、貧しさがうかがえる。しかし、目が不自由と思われる男は寄り添うように女の肩を抱き、かすかにほほ笑んだ女の表情からも、いたわり合いながら生きる姿が見える。
本作品は、旅芸人をテーマにした版画集『サルタンバンク・シリーズ』の1点である。ピカソがパリのアパート“洗濯船”に定住し、貧しい生活の中で生と死、貧困などを主題とした「青の時代」の最後期の作品で、高価だった新品の銅板が買えず、他人の使い古しの亜鉛板を使用して制作された。重ねられた繊細な線が画面に緊張感を与え、強い明暗のコントラストが場面をよりドラマティックなものにしている。