強風にあおられる木々、濁流となった水の流れ。颶風(ぐふう)とは台風のことである。墨の濃淡と線描によって岩肌や木々の幹、葉の一枚一枚まで細密に描かれ、臨場感と迫力に満ちた画面となっている。多門の優れた筆力がいかんなく発揮された大作で、第8回
[文展]に入選した。
西洋絵画が流入した明治から大正にかけ、日本画家たちは線を用いず色のぼかしで表現する朦朧体(もうろうたい)に取り組むなど、新たな日本画を創造しようと試みた。この作品は、多門がこうした時代の流れと自身の画風とのずれに悩み始める時期に描かれたものである。風景の再現より画面上の構成を重視する観念的な日本の
[山水画]にあって、写生をもとに自然を写しとろうとした多門の模索が見て取れる。