山口の晩年に描かれた作品は、画面を埋めつくす面と面、形と形のせめぎあいで、緊張感と形の広がりを生み出している。この作品は、昭和30年に描かれたものである。円形の放射状に伸びた絵具のあと、黒い地色と黄土色の形の境界線に見られるせめぎあいなどからは、晩年にまで及ぶ形の追求が見られる。「物象の基点は一つの点に生じ発展は円形に無限界の成長である。」という山口の言葉がある。つまり、形の基(もと)は点であり、点が成長して物を形づくるということであろう。結果ではなく過程こそが重要と考える山口は、その物が形づくられる過程を画面に表現したかったのではないだろうか。