貴船(きぶね)は京都の北、鞍馬の近くにあって、竜王がすむという伝説が残る水の豊かな地である。貴船川が流れ、川に沿って料理旅館が並ぶ。これらの料理旅館には川床がしつらえられ、夏の間は涼をとりながら、川魚や山菜の料理を楽しむことができる。この作品もそんな料理屋の川床を描いたものであろう。床の上では客がくつろぎ、仲居さんも川に足を浸し一休みしている。中澤は京都や奈良に親しみ、温泉を訪ねることが多かった。交流のあった与謝野鉄幹、晶子も鞍馬をしばしば訪れている。ともに貴船を旅し、鞍馬の温泉につかったこともあったのではないだろうか。