1936年から手がけられ、300セット近く作られた「トランクの箱」は、デュシャン作品のミニチュア複製による、持ち運びできる美術館である。作品や覚え書きの複製を箱に収めるというアイディアは、「1914年のボックス」に始まり、制作上のメモ93片の忠実な再現による「グリーン・ボックス」、そして「トランクの箱」へと展開していく。
　主要作品68点の複製や写真が詰め込まれたこのトランクは、デュシャンの人を煙にまくユーモアと、手の込んだ遊びに徹底してのめり込む気質を反映している自身による作品分類、立体的で重層的な配置など、デュシャン理解の手がかりに富んだ作品集になっている。